教育レベルを受ける、ウィリー・ウォンカの言うチョコレートバーを得るようなものだろう。多くの人がそれによって、想像を超えるような機会を与えられる黄金のチケットである。でももし、黄金のチケットを得るような幸運に恵まれなくても、チョコレートを食べて楽しむことは出来る。それだけでも投資する価値はあるというものだ。
グレゴリー・マンキュー
2008年4月20日 NYタイムズ
The Wealth Trajectory: Rewards for the Few
最近の米経済に議論するまでもなく明らかなことは、金持ちにとっていい時代だということだ。
もちろん、金持ちであることがダメであることなんてないことは知っているけど、今ほど甘美である時代もないのだ。
私達は、華々しいヘッドラインを日々見ている。金融欄に、ゴールドマンサックスのCEO、リロイド・ブランクフェインが68.5百万ドルの家を購入したとか、政治欄に、ビルとヒラリークリントンは、過去8年で109百万ドルを拠出したなどを見る。これらの話は例外ではない。数字を扱う経済学者たちによると、長期的な格差の広がりというトレンドを反映しているという。
スーパーリッチに関するもっともわかりやすいデータは、パリの経済学大学トーマス・ピケッティと、UCバークレーのエマニュエル・サズによるものだろう。ピケッティとサズ教授は、税金還付の歴史的研究を進めており、最近2006年版をアップデートした。
それによると、米国の1万世帯分の1世帯の年収は1千万ドルを超えたという。このすごい幸運な家庭は15000世帯弱いることになる。全てをあわせると適度なサイズの街ということになる。(アスペンとかナントケットみたいなもの)
さらにいうと、このスーパーリッチは大きな経済のパイを手にしているという。1980年代には、トップ0.01%の人口が全収入の0.87%を得ていたが、2006年には、そのシェアが4倍の3.89%にまで増えた。これは1916年以来みたことのないレベルだ。
ピケッティとサズの批判者は、税金還付データは信用できないと指摘している。税法制は常に変化しており、金持ちは制度を誤魔化すことができる。だから、この収入変化の報告が、税の戦略が変化しただけなのか、本当の環境変化によるものか特定することができないというものだ。
この結論から無関係であることはとても困難だが、ピケッティとサズは、嘘でないものを見つけている。他のデータでは、自分達のすごいデータをめったに見せることはしないスーパーリッチに関する情報が欠けている。しかし、あまり裕福ではない反対側の収入スケールと比較すると他の情報ソースでも類似するからだ。
政府の最近の人口調査(CPS)を見てみよう。これは5万家庭をカバーしており、月間の失業率を算出することでよく知られている。税還付のように、CPSでも格差の上昇が認められている。1980から2005年の間、トップ10%の男性正規労働者の収入は、下10%の労働者よりも49%も収入を増加させている。正規の女性労働者も、同じような高収入と低収入の格差が広がっている。
このトレンドを別の角度で見るとジェンダーギャップは収縮している。女性労働者は男性のより所得が下の方にかつてはいたが、今や追いつきつつある。性差による所得は平等に向かう一方で、トップ10%と下10%の男性女性を合わせた収入割合の差は30%に上っている。
格差の上昇は何を意味しているのだろうか? 専門家は、ワシントンを見てその要因を探ろうとするが、その根拠は特定しづらい。政府の政策決定者は、仮にそれを望むとしても、税引き前の収入に影響を与えるような強力な道具をもたないからだ。
また、格差の増大傾向は、政治的な風が変わってもほぼ一定であることだ。もっとも裕福な家庭の収入のシェアは、ロナルド・レーガンのときの8年間とビル・クリントンのときもほぼ一定であった。
この優れた処方箋は私の二人のハーバードの同僚、クラウディア・ゴルディンとローレンス・カッツの、もうすぐ出版される本「The Race Between Education and Technology」に書かれている。ゴールディン教授は、経済歴史家で、カッツ教授は労働経済学者で、しばしクリントン政権でも働いた経験がある。彼らの基底には「格差の急激な増大の原因は教育の停滞にある」というものだ。
ゴールディンとカッツ教授によると、過去1世紀の技術発展は一定で、平均的な生活水準を押し上げただけでなく、熟練労働者の需要を非熟練労働者よりも増大させた。熟練労働者は、新技術を扱うことができるが、非熟練労働者は時代遅れになっていく。
20世紀の大半は、スキルの必要な技術変化は、教育の効果によって発展してきた。言い換えると、技術発展が、熟練労働者の需要を増大させたが、我々の教育制度は、この供給をむしろ早めた。結果的に、熟練労働者は、その需要の割には急激な恩恵を受けることがなかった。
しかし、最近物事は変化した。過去数十年にわたり、技術発展のペースは上がっているが、教育の進化は停滞してる。その数字は驚くべきことだ。1950年に生まれた同一条件の労働者は、1900年生まれの労働者より4.67年学校教育期間が長い。つまり10年ごとに0.93年延びている。その一方で、1975年生まれは、1950年生まれより0.74年長く教育を受けているに過ぎない。つまり10年あたりの成長は0.3年になる。
熟練労働者の供給が緩やかになり、彼らの給料は非熟練者に比べて増大した。これがゴールディンとカッツ教授の教育のフィナンシャルリターンの関係性の算出に現れているのだ。1980年は、大卒の個人給与の年率上昇率は7.6%に及んでいたが、2005年には、さらに12.9%まで上がった。大学院卒へのリターンはさらに上昇し、7.3%から14.2%まで増えた。
教育が広がる格差のトレンドに対する鍵である一方で、スーパーリッチの収入に対する説明としてはまだ不明瞭な点がある。大学や大学院に行くことは、リロイド・ブランクフェインやビルやヒラリー・クリントンのようなトップ階級に参加するのに十分とはいえないからだ。
しかし、どちらも教育が無関係ではない。ブランクフェイン氏が、もしニューヨークのパブリックスクールから落ちこぼれ、ハーバードやロースクールに通うことなく、直接職についていたら、主要な投資銀行のトップになっていなかったと思われる。
もし、クリントン夫妻が、ジョージタウンや、オックスフォードやィエール大学に通うことができず高卒のままであったら、ホワイトハウスで働いたり上院議員になれなかっただろうし、数百万ドルを選挙資金を集めたり、ましてやスピーチ一回10万ドルなど得るべくもないだろう。トップの教育は、多大な富を約束しないが、助けになるのも確かだろう。
教育レベルというのは、ウィリー・ウォンカの言うチョコレートバーのようなものだろう。多くの人がそれによって、想像を超えるような機会を与えられる黄金のチケットである。でももし、黄金のチケットを得るべく幸運でなくとも、チョコレートを楽しむことは出来る。それだけでも投資する価値はある。