Jan 21, 2008

レーガン神話をぶっとばせ―paul krugman NYT コラム


歴史の語り口が問題だ。保守派がいまだにFDRやニューディールについて糾弾する本を書いているのは、かなり昔に過ぎたアメリカの出来事が現在の政治に影響することを知っているからだ。
だからバラク・オバマがロナルド・レーガンを誉めそやすような様を、やり過ごすことができない。レーガン政治をどう語るかというのは、現在の政治に大きな影響を与えるからだ。
ビル・クリントンは、1991年に大統領キャンペーンを始めたときにこのことをすでによく分かっていた。「レーガン―ブッシュ時代」は「公共の義務より私的獲得を進め、つまり特定の者の利益を公共の利益に優先させ、富や名誉を労働や家族に優先させた。1980年代は欲望と利己主義、無責任と過剰と無視のギルド時代だ」と宣言した時代であった。
それとは対称的に、オバマ氏は、最近ネバダの新聞に、レーガンは「それまで欠けていたダイナミズムと起業家精神をもたらした」と発言している。
多分、オバマ氏は、彼の支援者が言うように、レーガンの政治的な手法を尊敬しているのだろう。(私には、彼は保守派の編集委員の気を引こうとしているように見えるし、実際支持を取り付けた。)しかし、レーガノミックスが失敗だったという彼の指摘はもはや、どこにあるんだい?
失敗だよ。レーガン経済は一山当てただけだ。そう、1980年の半ばにブームがあり、経済は、ひどい不況から回復した。しかし、富裕層はさらに裕福になり、大部分のアメリカ人の経済状況はほとんど向上しなかった。1980年代後半まで、中流層の収入は10年前とほとんど変わってないし、貧困率は実際上昇していた。
明らかな不況に襲われた際、世間は裏切られた印象をもった。その裏切りられた印象をクリントン氏は、自己のホワイトハウスへの乗込みに活用できた。
現実を眼前にしてオバマ氏は何を話しているのだろう?米経済にすばらしいことは確かに起きた。しかしそれはレーガン時代に起きたわけではない。
私には、例えば「ダイナミズム」の意味が分からない。が、もしこれを生産性の上昇を意図しているなら、レーガン時代にそれが伸びたためしはない。生産性が最終的に伸び始めたのは―ブッシュ政権の経済諮問会議ですら、1995年を契機としていっている。
同様に、もし起業家精神を、アメリカのビジネスリーダーの才覚に自信をもつことを意味しているなら、それも1980年代には起きていない。当時、あらゆるビジネス本の表紙は侍(日本人)が飾っているようにしか見えなかった。生産性と同様、アメリカのビジネスの栄光は、技術と経済リーダーシップを取り戻し始めた1990年代半ばまで戻ることはなかった。
私は、なぜ保守派は歴史を書き換え、これらの果実がレーガン時代に起きたことにしたがるのか理解できる。詳しく言えば、1981年のレーガン減税が実際は14年ほど経ないと効果がなかったのに、経済成長に役立ったと既成事実にすることにある。(リチャード・ニクソンの「アメリカの朝」にはクレジットを与えないのかい?)
しかし、なんで進歩派と称する人(オバマ氏)が、このような歴史の書き換えに加担しているのだろうか? しかもレーガノミックスの失敗があちこちで起きているこのご時勢に。
ロナルド・レーガンのように、ブッシュ大統領は、富裕層のために巨額の減税を導入し、やがて中流層へも還流されるだろうと約束した。また、レーガンのように彼も経済スランプ時に政権を始め、スランプを脱出したことを政策の正しさの証明だと述べている。
そして、レーガノミクスのように―しかしさらに急激に―ブッシュノミクスは悲嘆に終わった。今や世間の風は、1992年と同様冷たい。給与はインフレ率より低く。ブッシュ時代の雇用成長は、クリントン時代に比べると無気力そのもの。正式な不況とはいえずとも―これからそうなるのは避けようもないが―1990年代の楽観性は彼方に消えうせた。
端的に、進歩派は、保守派の役立たずの一度も機能してこなかった政策を修正しなくてはならない。
これは単に次の選挙を、どうするとかいうレベルの議論ではない。クリントン氏は、選挙に勝ったが―オバマ氏は正確に指摘したように―彼はアメリカの軌跡を、レーガンが果たしたようには変えることができなかった。どうしてだろう?
まあ、クリントン時代の偉大な失策とも言うものは―健康保険の導入に失敗したことよりもはるかに大きい。無論双方は関連しているが、要は、レーガン神話ともいう語り口を変えることができなかったことだ。ともかく、未だに共和党員たちは、われこそ次のロナルド・レーガンだと演じているじゃないか。
今や、進歩派たちは、レーガン主義は、根本的に間違いだということを議論する2度目のチャンスを与えられている。今再び多くのアメリカ人は、国が間違った方向に向かっていると感じているときだからだ。しかし、リーダーたちが、どんな意味でもレーガンは正しかったなんてことを言っているようでは、そんな議論は成立しないだろう。

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